どんな「風」でも大丈夫。筆先にまかせて、自分を少しだけ自由にする時間。

「風」の筆文字。背景には青空が広がり、タンポポの綿毛が風に舞っている。
目次

はじめに

夕方、バタバタと夕飯の支度を始める前。

ふと、キッチンの窓を開けた瞬間に吹き込んできた風が、驚くほど心地よくて立ち止まってしまうことはありませんか?

私たちの毎日は、名前のつかない細かなタスクで埋め尽くされています。

あ、洗剤の詰め替え買っておかなきゃ

あのメールの返信、もう少し丁寧に書くべきだったかな

今日の晩ごはん、せいろ蒸しにしようかな……

頭の中のタブが常に20個くらい開きっぱなしで、心もパンパン。

そんな時、私たちは知らず知らずのうちに、浅い呼吸を繰り返しています。

なぜ今回、この「風」という文字をお届けしたいと思ったのか。

それは、風に決まった形がないように、私たちも「こうでなきゃ」という枠から、ちょっとだけはみ出してもいいのかも……そんなふうに感じたからです。

1. 窓を開けて、心の「換気」をするように

「風」という文字を書こうと思ったのは、日常の中でふと風が頬を撫でた瞬間の「あ、今、私、呼吸した」という感覚を、筆文字で表現したかったからです。

家事や仕事という枠の中にいると、私たちはどうしても「効率」「正解」を求めてしまいます。

「しっかりしなきゃ」「早く終わらせなきゃ」と自分に言い聞かせる、生真面目な心が、時として自分を苦しくさせてしまうこともありますよね。

でも、文字を書く時間は、その枠から一歩外に出られる大切な「聖域」です。

「風」は、画数も多いですし、包み込むような「かまえ」のバランスも取りにくい、一見すると難しそうな文字です。

でも、実はその「一筋縄ではいかないところ」こそが、この文字の最大の魅力なんです。

完璧に書こうとしなくていい。
ただ、今のあなたの呼吸を筆に乗せてみる。そこから始まる時間を、一緒に楽しんでみませんか?

2. 「正解がない」という、最高の自由

今日一番の心地よい「風」の筆文字。

「風」という漢字をじっと見つめてみてください。

この文字、実は決まった「正解の形」がありません。

いえ、もちろん書道としてのお手本はありますが、風そのものに形がないように、文字としての「風」も、どんなふうに遊んでも受け入れてくれる懐の深さがあります。

私は、「風」という文字を、「真っ白な紙の上の、小さな遊び場」だと思っています。

私たちはいつの間にか、「期待に応え続ける完璧な自分」や「そつなくこなす良き大人」といった、誰かが決めた、あるいは自分で勝手に作り上げた「」に自分を押し込めようとして苦しくなっています。

でも、風はどうでしょう。

時には優しく花びらを揺らし、時には激しく雨を連れてくる。決まった形を持たず、その時々で表情を変える。

今の私は、どんな風だろう?

そう自分に問いかけながら筆を持つとき、私たちは「正解通りに書かなければいけない」という重荷を、ようやく下ろすことができるのです。

3. 筆先で、自分だけの「風」を吹かせる

さて、実際にペンを持ってみましょう。もちろん、小筆でも筆ペンでも鉛筆でも好きなものを使って。

紙の上を滑る、サッ、サッという小さな音。

それだけに耳を澄ませるだけで、少しだけ日常の喧騒から離れられる気がしませんか?

「風」を書くとき、私はいつも実験をしているような、ワクワクした気持ちになります。

この文字は、少しの角度の違いで、驚くほど表情が変わるからです。

角度一つで変わる、風の表情

筆文字の面白いところは、同じ文字でも「今の自分の状態」がダイレクトに線に現れるところです。

特に、「風」の外側の枠組みである「かまえ」の部分に注目してみてください。

古典から抜粋した「風」と、実際に筆で書いた風の書きぶりの違いで表情が変わることを比較した構図
丸枠内〈出典:伏見沖敬編『書道字典』角川学芸出版〉
  • 春のそよ風のイメージ

    ①一画目:スーッと。

    ②二画目:軽く、丸みを帯びながら流れるままに。

    ③「虫」の部分:余白をたっぷりとってふんわりと。

    すると、疲れた自分を包み込んでくれるような、やわらかいそよ風が生まれます。


  • 冷たい北風のイメージ

    ①一画目:鋭く。

    ②二画目:右上がりの角度を、思いっきり上げてみる。

    すると、紙の上に力強い北風が吹き始めます。

一画一画を大切に、でも「次はどうなるかな?」と面白がってみる

あ、今日は少し右上がりが強くなったな。今の私は、少し気合が入りすぎているのかも」

今日は線が細いな。少しお疲れ気味かな

ペン先が紙に触れる瞬間の、かすかな手応えは、今の自分を知るためのバロメーター。

どんな風になってもいいんだ」と自分に許可を出してあげられたら、それはもう、あなただけの立派な作品です。

4. 線画の向こうに、自分を解き放つ時間を

今回、「ちょっと書いてみようかな」と思われた方のために「風」のなぞり書きシートをご用意しました。

デザインには、そよ風に吹かれる少女とチューリップの花かごのモチーフを添えました。

繊細な線画を眺めているだけでも、少しだけ心が軽くなるような、そんなデザインを目指しました。

なぞり書きシート見本
「風」のなぞり書きシート2種類の紹介。一枚目はゆったりとした配置に、少女と花かごのイラストを入れてリラックスした配置。2枚目はしっかり書きたい人向けの配置。

『ちゃんとしなきゃ』を、10分だけお休みしませんか?
筆先でお散歩するように、自由になぞってみてください

※お使いのスマホによっては、直接ダウンロードされる場合があります。保存されたファイルを開いてお楽しみください。

なぞり書きに、ルールはありません。

一画一画、ゆっくりと、自分の呼吸とペンの動きを同期させてみてください。

文字を「書く」というより、風を「感じる」ような気持ちで。

もし、線からはみ出してしまっても大丈夫。

風は、決まった道なんて通りません。

はみ出したその線こそが、あなたの今の「自由さ」の表れかもしれません。

まとめ:さあ、今日はどんな風を吹かせましょうか?

家事の手を止めて、お湯が沸くまでの10分間。

あるいは、家族が寝静まったあとの、静かなリビングで。

この「風」を書く時間が、あなたにとって「今の自分でいいんだ」と深く頷ける、大切な休息になりますように。

今日の筆文字の時間を終え、ゆっくり温かい飲みものを用意し、充実した空間。

きれいな字」を目指す必要はありません。

ただ、今のあなたのままで、筆を動かしてみてください。

その一歩が、あなたの心をふわりと軽くする風になるはずですから。


わたぼうし
筆耕士
「ゆるく、楽しく、頑張らない」がモットー。自身の経験から、正しさよりも「心地よさ」の中で生まれる生きた文字を大切にしています。 さとう式リンパケアで身体を整えつつ、小筆や筆ペン作品を制作。小筆や筆ペンで綴る作品などはminneのショップで販売中です。
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