心に、一輪の光を
街を歩けば、真っ白なモクレンが空に向かって誇らしげに咲いていますね。
その潔い白さ、圧倒的な生命力。
見上げているだけで、なんだか自分の心まで震えるような、まっさらな気持ちにさせてもらえます。
毎日、誰かのために一生懸命なあなたへ。
自分のことはいつも後回しで、気づけば呼吸が浅くなっていませんか?
今日は、そんなあなたの心に春の光を届ける「花」という一文字の物語をお届けします。
漢字の成り立ちや、古くから日本人が大切にしてきた感性。
そこには、今の自分をまるごと肯定して、ふっと肩の力を抜いて生きるためのヒントが隠されていました。
温かい飲み物でも用意して、ゆっくりとページをめくってみてくださいね。
あなたという「ハナ」を、慈しむ

日本語の「ハナ」という響き。実はこれ、植物の「花」だけを指す言葉ではなかったことをご存じですか?
古代の日本では、顔の真ん中にある「鼻」や、物事の「端(はな)」も同じ語源だったと言われています。
これらに共通するのは、どれも「一番外側に突き出した部分」や「物事の始まり」という、命の先端であること。
あなたの鼻から吸い込む空気も、指先の繊細な感覚も、すべては生命という一本の木から咲いた「ハナ」そのものなのです。
私は最近、筆を持つ前に自分の指先から手首までを、反対の手で優しくなでることを習慣にしています。
不思議なことに、そうやって自分を慈しんであげると、手が驚くほどふんわりと柔らかくなっていくんです。
身体が緩むと、心も自然と開いて、呼吸が深くなるのを感じます。
「花」の字が教えてくれる、変化の美しさ

「花」という漢字の成り立ちを紐解くと、面白い発見があります。
もともと古代中国では、花のことを「華」と書いていました。 それが時代を経て、より親しみやすい今の「花」という形に変わっていったのです。
この字の下にあるのは「化(変化する)」という字。 植物がじっと力を蓄え、蕾を結び、やがて美しく姿を変えて花開く。
そのダイナミックな「変化」そのものを、昔の人は「花」という一文字に込めたのかもしれません。
私たちも、日々変わり続けていい。
若かった頃の自分と今の自分、少しずつ変化していくことは、あなたが一生懸命に生きている証拠なのです。
梅から桜へ。移ろう美意識と「自分らしさ」

日本人が「花」と聞いて思い浮かべる対象も、時代とともに移り変わってきました。
奈良時代の『万葉集』のころ、主役は大陸から渡ってきた「梅」でした。
当時の人々にとって、梅は都会的で洗練された、憧れの象徴だったのですね。
それが平安時代の『古今和歌集』のころになると、主役は一気に「桜」へと入れ替わります。
「花といえば桜」という日本独自の感性が、このとき確立されました。
外からやってきた素晴らしいものを愛でる時期(梅)を経て、自分たちの足元にある独自の美しさ(桜)を見出していく。
この歩みは、私たちが人生の経験を重ねて「自分らしさ」を見つけていく過程にも似ている気がします。
世阿弥が説いた、枯れない「誠の花」

室町時代に能楽を大成させた世阿弥は、その著書『風姿花伝』の中で、美しさを二つの「花」に例えて説きました。
一つは、若さゆえに放たれる、一過性の「時分の花(じぶんのはな)」。
もう一つは、長年の修行と経験を積み重ね、老いてなお観る者を感動させる「誠の花(まことのはな)」です。
世阿弥は、若さという天然の贈り物はいつか必ず散るけれど、磨き上げた芸(心)から咲く「誠の花」は一生枯れることがないと教えたのです。
40代、50代と年齢を重ねることを、寂しいと思う必要はありません。
むしろ、今までの人生で蓄えてきた経験という「種」が、あなただけの深い色味を持った「誠の花」を咲かせる準備を整えてくれている。そう思うと、少しワクワクしてきませんか?
筆先で遊ぶ。鵞鳥(がちょう)のカーブとはねの「わくわく」

筆文字で「花」という字を書くとき、一番の楽しみは最後の一画にあります。
書道ではこの豊かな曲線を、水面にぷかぷかと浮かぶ「鵞鳥(がちょう)のおなか」をイメージして書くと言われています。
指先の力をふっと抜き、ふっくらとしたおなかを描くように筆を運び、最後にキュッと上向きにはねる。
その瞬間の、心がふわっと浮き上がるような、小さな「わくわく感」。
綺麗に書こうとしなくて大丈夫。
筆先の躍動を楽しみながら、心の中にあなただけの一輪を咲かせてみてください。
むすび:心に一輪、花を携えて

完璧な花でなくていい。
今日、あなたがそこに咲いているだけで、それはもう十分すぎるほど尊いことだから。
現在、皆さんがお家でゆっくり楽しめる「花」のなぞり書きシートを心を込めて制作中です。
もうすぐお届けできるので、楽しみにしていてくださいね。
まとめ小箱
* 語源のつながり
「花」は「鼻」や「端(はな)」と同じ、生命の「先端」という意味。
* 変化を愛でる
字の中に隠れた「化」の通り、姿を変えていくことは生きる喜び。
* 誠の花を咲かせる
重ねた月日は、枯れない「誠の花」を咲かせるための大切な時間。
今日のひと言
「たまには深呼吸して、自分という花にたっぷりとお水をあげましょう。」

